意識の旅

その時、地球は真実のメロディを奏でた

輪廻を超えて誕生した闇の司令官

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平均気温を大きく上回る夜、空には満月が孤独に漂っていた。月は妖艶な明かりを暗闇に浴びせ、その光を眺めていると、自分の不誠実な部分が全て見透かされているようだ。その日の月は、いつにもまして輝いているようだった。しかし、よく観察してみると、それは月が明るいのではなく、夜の闇がより深いため、いつもより月の輝きを引き立てていることが分かる。漆黒のような深い夜は、月だけでなく、虫の鳴き声をも際立たせていた。その闇は人間が持つ闇とは違い、明らかに自然と調和していて、全的な美しさの一部であった。それは闇であると同時に光であった。

 

バクリオテスの渇望 

闇の司令官であるバクリオテスは、肉体をプラズマで構成した奇抜な生命体だった。制御室の中央には、有機的に上下に連結された球体があり、バクリオテスが球体に手をかざすと、5本の指先から電流がながれ、新たなビジョンがダウンロードされた。それは隠された闇の上には、さらなる闇が存在するということを証明していた。バクリオテスには口が存在しなかったが、胸の中心にある六角形の物体を振動させることで、音声を作りだすことができた。バクリオテスから製造される声は、常に倍音がかっており、それを聞いた者は恐怖に戦慄し、その命令に従う他には選択の余地がないと強烈に思わされた。

 

バクリオテスは常に渇望していた。夢の中にある金属から、無限に増殖する寄生虫を作り出し、数々の惑星に送りこみ、その内部から破壊し占領した。そして、100万もの生命体を奴隷に従え、あらゆる富を手に入れていたが、それでも渇望は止まることを知らなかった。バクリオテスは思いつく限り、世界に投影されたあらゆる物事の重要性を回収し、その重要性を自らの存在価値に置き換えた。そして、自らの重要性が高まれば高まるほど、愉悦し興奮を覚えたが、時間が立つとその感覚は薄れ、再び渇望がアイドリング状態となった。すると新たな渇望を埋めるためのターゲットを探り、球体からダウンロードされる情報と、悪魔の瞑想を頼りに、全力で追い求めた。

 

それは宇宙座標の外れに位置する惑星を侵略した時の出来事だった。その惑星には、人々の意識を、惑星自体の意識と連結させる、ある特殊な金属で作られたクリスタルが隠されていた。バクリオテスは最後までその存在に気が付かず、そのため、恐怖で住民を支配することができずにいた。住民の意識は惑星と繋がっていて、怖れに屈しなかった。彼らはまるで自分の命がちっぽけであるかのように、服従よりも簡単に死を選択した。闇に加担するほど愚かではないと、堂々とした潔いふるまいは、反対に、バクリオテスにとって恐怖そのものだった。自分がコントロールできない物事が存在する事実が徹底的に恐ろしく、安らかに眠りにつくことができなかった。最終的にその惑星は、住民もろとも粉々に粉砕され、跡形もなく宇宙の塵となった。

   

欠乏感を持つ信念体系は、存在全体から重く鈍いエネルギーを放射する。その闇は、その闇自体が、この世界で価値あると思えるものを吸収することで、そのバランスを保とうとする。しかし実際のところ、自分、もしくは他人によって定義された価値は、その本質において全くの幻想である。そのため、その価値を自己と同一化させる行為自体が、コップの中に空気の水を注ぎ込むようなもので、その者の愚かさを象徴している。だからこそ、その精神から発せられるバイブレーションは重く、宇宙にネガティビティを蔓延させる要因となる。

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過去生からの闇

それはバクリオテスの過去生における出来事だった。その生において、バクリオテスは、イーテルと名乗っていた。イーテルには、薄紫色のリングストーンを右肩に浮かべた美しい妻がいた。2人は淡いシルクのような日々を送り、そのうちに、可愛らしい双子の姉妹生まれた。双子の姉妹は、肉体の振動数が完全に調和していたため、深いテレパシーを実現していた。あらゆる意思の疎通をテレパシーで済ませていたため、2人が会話することは全くなかったが、2人はまさに一心同体であり、すべての行動を効率よくこなし、10人分のスピードで物事を処理した。

 

城の中心にあった鐘の形をしたクリスタルが何者かに盗まれた次の日、空から災厄が降りてきた。それは何百万もの軍隊から構成された漆黒の彗星と呼ばれる闇の集団で、イーテルの住む惑星を侵略した。町は地獄から抽出した炎で焼き尽くされ、ほとんどの人間は焼き殺された。イーテルの妻は焼死体で発見され、双子の娘は、敵軍の科学実験のサンプルとして連れ去られた。たまたま惑星出張で不在であったイーテルは生き延びることができたが、事実を聞かされた時、あまりの衝撃に、現実と夢の世界が分裂しては再結合を繰り返す症状が始まった。それは逃避するための反応なのか、悲劇に適応するための反応なのか、自分でもよく分からずにいた。

 

イーテルには現実を認めることができなかった。ありとあらゆる因果は神の暴走だと呪った。娘達は死の瞬間に、2人で同調させたテレパシーを送ってきた。それは父への感謝と、自分達が死を受け入れているという報告の念だった。イーテルはそれを自分の肥やしにすることはなく、むしろ現実への憎悪を激しく加速させた。自分が失ったこと - 愛する妻と子ども達、美しい故郷、幸福な日々、その全ての欠乏を、自分の中に巨大な隕石のごとく抱えた。イーテルにはそれを直視し、受け入れる体力は残っていなかった。そして事の原因の全てを、外部に投影し、神々の遊戯とも言えるこの世界を、何度生まれ変わっても呪い殺し続けることを誓った。そして3度目の転生後、イーテルの魂は、内側の深くに留まる闇を減衰させることなくバクリオテスとして誕生した。

 

不幸は自ら作り出すドラマの中にだけ存在する。産み落とされた感情は、相手を許すべきとか、恨んではいけないといった言葉で片付けられるほど単純ではない。ただ、自分で作りだした感情は、自分で世話をするしかない。怒りがあるならば、怒り、受容するしかない。悲しみがあるのならば、悲しみ、受容するしかない。なぜなら、その感情を作りだしたのは、自分がそのように世界を見ることを選択しているからで、感情は観念的な物理法則にただ従って作られているからだ。痛みにフォーカスし、自ら受容することを選択しない限り、闇が終焉することはない。

 

 夜の孤独

月は川沿いの水の上に光を反射させ、白いゆらぎを漂わせていた。夜の風は、日中に生み出された慌ただしい現実を削ぎ落とし、次の日を新しく始める準備をしている。夜の闇はどこか物悲しく、暗闇と共に隠された声を孤独に背負っているかのようであった。川沿いの草むらからは、虫の鳴き声が夜の静寂に放たれており、月にまで響かせそうな勢いで、闇の空気を力強く振動させていた。まるでその声は、夜の孤独を天の神々に訴えかけているようで、人間の闇が置き去りにされている現実を物語っているようだった。

 

時の魔術師と真実のオカリナ

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飛行機に乗り、座席の窓から大地を覗いていると、雲の隙間から陸地が見え始めた。陸地は土の乾いたような質感を醸し出し、コロンブスが旅した記憶を、岩の細胞一つ一つに宿しているようだ。気まぐれな雲の群れが過ぎ去った後、延々と続く森が視界一杯に広がってきた。森の表面が大地を覆い尽くしている様子を見て、森の中には、人類の知らない精霊たちの物語が隠されているのだろうと想像するだけで心が躍る。しばらくすると気まぐれな雲がまた大地を覆い隠し、その謎に触れることは許されないと言っているようだった。その煽りは、隠された秘密の奥深さをますます感じずにはいられず、その謎めいた雰囲気を自力で継続させていると、心が少年のような振動を始めた。 

 

魔術師とオカリナ 

時の魔術師は新しいオカリナを口に咥え、生命達を蘇らせる音色をばらまいていた。動物や植物達はその音に反応し、しなやかさと潤いを取り戻し、新しい現実に歓喜していた。それはあらゆるエントロピーの法則を超越し、侵略された原住民の動画を逆再生しているようであった。時の魔術師はオカリナを吹き終わると、ポケットから3つのアーモンドを取り出し、1つずつ順番に口に運び、カリカリと頬張っていた。しばらくすると辺りが突然変わり始めた。それは現実感が薄くなるような、夢と現実の間に放り込まれたような感覚だった。

 

オカリナの音色はすぐ横の村にまで響き渡った。その結果、村の中での日常は大きく変わりはじめた。なぜなら、いままでが、いままでいられなくなったことを村民全員が直感的に理解したからである。川のほとりは自動的に人が集う場所となった。時間を観察する人や、白いキャンバスに色をにじませる人、様々であったが、誰もが快適さとリラックスの輪の中で、身をやさしく折りたたんでいることだけは共通していた。灯台の横にある階段を下った先にある祠には、毎日誰かしら訪れるようになり、常に清掃が行き届くようになった。花瓶は季節の花と共にあり、祈りをするためのスペースが作られた。

 

オカリナの音色が村に響き渡る前、村長の息子は悩んでいた。高齢である父が亡くなった後に村をまとめるあげる自信がなかった。それ以外にも、いつも頭の中はなにかの問題で満ち溢れていた。オカリナが新しい現実を映しはじめてからは、早朝の散歩を日課にするようになった。朝日を眺め、草の音を聞き、水の匂いを味わっていると、全ての問題は、ただ自分自信に正直でいることで解決されると風が教えてくれた。それから村長の息子は、村長の息子としてではなく、村長の家で生まれた1人の男として、ただ自分が必要だと感じることだけをやり、腑に落ちないことは全て保留にした。知らない時には知らないと言い、困った時には困っていると言った。不思議なことに、そうしていると、必要な時に必要な人が現れ、すべての問題は一瞬で解決するようになった。

 

思考はなにかを手に入れ満たそうする運動を繰り返す。しかし、現実は思考がそのスペースを奪えば奪うほど、繊細な気づきを失う。なぜなら水々しく溶けるような芸術は、思考による最適化の中に、その姿を映し出すことができないからだ。真の現実は、人が考えるほど論理的ではないが、同時に、泣きたくなるほど緻密で論理的である。思考は自己中心的に世界を切り取り、それを全てだと言いたがるが、それは全くの虚像で、純粋な気づきの中にこそ、叡智は宿り、故に、時間の密度の中で、気づきに徹する隙間を許すことが、本当の意味で現実を創造する。

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オカリナの夢

時の魔術師のオカリナは、密林の奥深くに存在する洞窟の中で発見された。その洞窟は、かつて「透明な竪琴」と言われた瞑想の達人の住処であった。彼が瞑想を始めると、半径30kmに存在するあらゆる動物が眠りだした。まるでどこかの次元に同時に誘われたかのように密林には静けさが漂った。彼の瞑想は、長い時で1年間続いた。その1年間密林は静まり返っていたが、動物たちは何も食べず、眠っていただけで、むしろ肉体の若さを取り戻していた。密林の中では、鉱物と生物のありとあらゆる全てが、完全な調和の中で循環していた。

 

オカリナは、彼の友人である鍛冶屋によって作られた。材料の石は、瞑想が行われていた密林の石が使われた。石は鍛冶屋が思った以上に硬く、そしてしなやかだった。鍛冶屋が石に向かってハンマーを下ろそうとすると、不思議にどこを打つべきか、全て手に取るように理解することができた。完成した後には、自分がオカリナを作ったのではなく、石にオカリナを作らされたような感覚だった。作り上げた誇らしさや達成感よりも、ただオカリナを作る体験ができた喜びを感じることができた。そしてオカリナが完成した次の日、鍛冶屋の妻は、念願の女の子の赤ちゃんを出産した。

 

オカリナは密林の中でひたすら光を放っていた。その神秘性に動物達が集まり、鳥が喋り始めた。花は1ヶ月も早く咲き始め、虹が何本も空を渡していた。そうして何百年もオカリナは密林の中でその営みを繰り返していると、密林の中の生命達は、夢の中でオカリナと1つになった。だからオカリナには、密林の全ての生命が宿っている。そしてオカリナはそれを持つ者を静かに待っていた。完全な時期に、完全な足音と共に、完全な呼吸で、時の魔術師は現れた。魔術師はオカリナを手に取り、瞑想を始めた。そして天に静かな声で誓いを立てた。その声を聞き取る者はいなかったが、それは新しい時代が訪れる始まりの合図であると、誰もが直感的に理解した。

 

 新しい時代の幕開けは、個人的に発生する信念体系の破壊と創造である。その信念体系は、誰かに教わることで得るのではなく、自分の内側への観察から導き出される。最初、その音はとても小さいかもしれないが、耳をすませ、静寂を保てば、誰でも聞くことができる。その意味を汲み取った時、この世界の現実に怒りを覚えるかもしれないし、あまりの馬鹿馬鹿しさに笑い転げるかもしれない。あまりに人間は狂った習慣に馴染みすぎてしまった。いずれにしても現実は変わる。朝日は歌う準備を始め、既にオカリナは魔術師の手に渡されている。 

 

永遠の記憶

飛行機は着陸体勢に入り、機体の中は乗客達の気だるい様子が空気を重くしていたが、窓の外に目を向けると、夕暮れのオレンジ色がエネルギッシュに大地を燃やしていた。上空から見た森は、未だに精霊たちが隠れて住んでいそうな神秘性を保っていた。まるで森の領域だけ異なる時間を経験しているようで、再びこの世界に隠された秘密があることを実感した。この世界は分かりきったものだと思えば、そのように見えるし、この世界は神秘的で謎めいていると思えば、やはりそのように見える。それは人間の体験が無限であることを示唆しており、その体験こそは、個人的世界の中で永遠の記憶となるのだろう。